第23回(2004.10.03更新)

ディズニー映画「南部の唄」"SONG OF THE SOUTH"とスプラッシュマウンテン

●南部の歌(1946年作品)
製作: ウォルト・ディズニー
監督: ハーブ・フォスター
動画監督: ウィルフレッド・パットン
主演: ジェームズ・バスケット
ボビー・ドリスコール
ルアナ・パットン
ハッティ・マクダニエル
国内再発盤LD 1990年9月25日
<PILF-1096> 94分 二カ国語版
※公開時タイトル「南部の唄」
 

19世紀末のアメリカ南部を舞台にした「南部の唄」は、実写とアニメを合成したディズニー初の実写長編映画として、1946年に製作公開された(国内公開は1951年10月)。

原作は、新聞記者だったジョージア州出身のジョエル・チャンドラー・ハリス(Joel Chandler Harris)が、黒人たちの間に語り継がれていた動物寓話を新聞連載用にまとめ、「リーマスおじさんのお話」"Uncle Remus: His Songs and Sayings."として、1880年に単行本化したもの(ジョエル・チャンドラー・ハリスは白人だが、当時の読者からは黒人と思われていた)。
黒人のリーマスおじさんが白人の子供に語って聞かせる昔話という設定は、映画でもそのまま流用され、ジェームズ・バスケット扮するリーマスおじさんの台詞も、原作通りに南部の黒人訛りで会話をしている(ようだ…)。
日本でも邦題「ウサギどんキツネどん」として出版されていた。ウサギどんがブレア・ラビット、キツネどんがブレア・フォックスだ。※ちなみにBr'er FoxのBr'er(ブレア)は、Brother(ブラザー)の南部の黒人訛り。

主題歌の「Zip-A-Dee-Doo-Da」は1947年度のアカデミー賞歌曲賞を受賞。
リーマスおじさん役のジェームズ・バスケットは、ベテランのヴォードビリアンでキツネどん(ブレア・フォックス)の声も担当。また、この映画での心に残る役作りを評価され、1947年度のアカデミー賞特別賞を受賞している。

父親の仕事上のトラブルで、母親の実家である南部の農場で暮らす事となった少年ジョニー。寂しく悲しいジョニーを元気づけたのは近所のリーマスおじさんが話してくれる楽しい昔話で、ジョニーはリーマスおじさんが大好きになってしまう。
しかし、あまりにもリーマスおじさんになつくジョニーを心良く思わない母親は、リーマスおじさんをジョニーから遠ざけようとする。そして、農場を去ろうと決意するリーマスおじさんに気づいたジョニーは、思いもかけない行動をとってしまうのであった…。

ディズニーランドのスプラッシュマウンテンは、この「南部の唄」のアニメ部分の3つの動物寓話「ウサギどん 家出の巻」「タール人形の巻」「笑いの国の巻」を元としたアトラクションである。
特に、このアトラクションのハイライトであるイバラの茂みの滝つぼへの急降下は、自分の棲家であるイバラの茂みに嫌気がさし家出をしたウサギどんが、仲の悪いキツネどんに捕まってしまい、「あのイバラの茂みにだけは投げないでくれ!」と嘘をついて、まんまと逃げ出すことに成功するというエピソードをモチーフとしている。
本当のやすらぎは、実は自分のそばにあった、という教訓がこのイバラの茂みの滝つぼへの急降下となるわけで、急降下後のアトラクションのエピローグも、この映画を見ていれば、また面白さも増すというものである。

しかし、残念な事にアメリカでは、この「南部の唄」はディズニー社の自主規制により1986年の再公開を最後に公開される事はなくなってしまった。

 

大きな理由としては、全米黒人地位向上協会の、この映画の時代背景である19世紀末のアメリカ南部の黒人生活が現実とはあまりにもかけ離れすぎているというクレームからによるもの。
つまり、あまりにも楽しそうに見えてしまい、当時の黒人たちが味わった苦痛を忘れさせてしまうような間違った歴史観を与える可能性が高いという事である。

現実の19世紀末のアメリカ南部では、南北戦争(1861年〜)終結後の奴隷解放令(1865年)にも関わらず、約200年に渡り奴隷として差別され続けた黒人たちにすぐに自由が訪れる事は無かった。相変わらずの白人優位の中、裕福な白人の地主から土地を借り農業をいとなむ小作人として、白人の支配下におかれる時代が続いていたのだった。

 


もちろん「南部の唄」は、当時の黒人生活そのものを描写する事を目的とした映画ではなく、黒人のリーマスおじさんと白人少年との境遇も立場も違う人間同士の心の交流や、つらい事や悲しい事も考えようによっては楽しくなるものだという寓話自体の面白さ、そして、のどかで緑豊かな農場の風景をバックに南部訛りで語るリーマスおじさんの素朴な温かさと優しさを表現しようとしているのだが、全米黒人地位向上協会の見解は違う。
当時のアメリカ南部では、虐げられた黒人が裕福な白人少年との間に心を通わすなど考えられない事であり、当時の黒人たちの苦痛を無視するかのような楽しげな雰囲気、人の良いリーマスおじさんの強い南部訛りは、黒人を蔑視しているかのような印象を与える、という事になってしまうのだ。

ディズニーは、全米黒人地位向上協会のクレームを受け、1986年以降、この映画をあくまでも自主規制として封印している。しかし、日本ではビデオ・LDがリリースされていた為(現在ではいずれも廃盤)、アメリカのディズニーファンがこぞってこれを買い集めるという事態が起こった。
一映画ファンとしては、今後のDVDリリースを期待はするが、ホワイトがカラーよりも優れているという身勝手な理論をふりかざした奴隷制により虐げられてきた黒人たちの解放までの長い闘いを考えると、単純には片付けられない問題であり、ディズニーもそのあたりの理由から自主規制という立場をとっているのであろう。

先に述べたディズニーランドのスプラッシュマウンテンが問題にならないのは、「南部の唄」をアトラクションにしているわけではなく、原作である「リーマスおじさんのお話」をテーマとしているからである。
しかし、スプラッシュマウンテンに乗って、ディズニー映画「南部の唄」の存在を知った子供たちが、その映画を見たくても見られないという状況は、実に奇妙な話ではある…。(2004.10.03)


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