第9回(2001.07.21更新)

君は世界のヒーロー、ソニー千葉を知っているか?

  ■「激突!殺人拳」 1974年2月2日公開/東映作品 →ジャケットギャラリーはこちら

んっ、こぉ〜、んっ、くぁ〜と、もはやトレードマークともなった独特の気合いでリキむ千葉ちゃん「激突!殺人拳」(アメリカ公開タイトル「THE STREET FIGHTER」)。
千葉ちゃん異色のダーティヒーロー、剣琢磨(つるぎたくま)というキャラクターに圧倒される凄い映画だ!

1973年12月公開の「燃えよドラゴン」大ヒットによるあやかり和製空手映画であるが、極東マフィア・五竜会とのど派手な肉弾バトルを軸に、正武館の政岡館長(京都・日本正武館館長 鈴木正文/本人)との決戦、座頭市のような仕込み杖の使い手との闘い、タンカー船内での石油王の娘救出ラストバトルまで、そのバリエーション豊かな戦いで最後まで飽きさせない。

誰が敵か味方か、善か悪か、まったくわからなくなってしまうほどの熱いドラマ展開と、多くの結末を語らず強引に終わるラストが続編への期待を高めるが「殺人拳・2」でも、そのほとんどの結末を何も語ってはくれない…。
この映画で唯一わかる事は、ダーティヒーロー千葉ちゃんが邪魔な奴らをボッコボコにしてしまうという事だけである。

 
んっ、こぉ〜、んっ、くぁ〜と気合いを入れる千葉ちゃん、思わず、こっちも力が入るぜっ!
あっというまに敵を倒してしまう強すぎる千葉ちゃん、ほんとに凄い!JACとの息もピッタリ!(何故、上半身裸なのかは、トレーニング中に襲われたからである…)
  暴力的なイメージをいだかせないという当時の(…特にアメリカでの)アクション映画のお約束を完全に無視した千葉ちゃんの殺人拳は、両眼潰し突き、のど仏・急所ひきちぎり、前歯ぼろぼろ顔面突き、目玉飛び出し首回転キックなど、かなりバイオレンス色が強い。
あまりにもやりすぎる為、サム・ライミ監督の「死霊のはらわた」(1983年)のようにスラップスティック・コメディ化してしまっているのであるが、千葉ちゃんがこの後すぐに、そのコメディ部分を強調し「直撃!地獄拳」「直撃地獄拳!大逆転」といった究極のスラップスティック・コメディの傑作を生むにいたったのは自然の流れといえるであろう。

いずれにせよ、このバイオレンス度の強い空手アクションが、いわゆるカルト的な人気をよんでいる理由でもあるわけだが、筋金入りの映画マニア、タランティーノのおめがねにかなったのも、うなづける暴れっぷりである。(タランティーノ脚本の「トゥルー・ロマンス」(1993年)冒頭に、ソニー千葉の3本立て映画を見るシーンがある。)
熱く濃いバイオレンス千葉ちゃんの殺人拳は「殺人拳・2」、「逆襲!殺人拳」、「子連れ殺人拳」(※番外編)と続く怪作シリーズとなった。

 
■観賞のポイントとツッコミ所

※マフィアの罠に落ち、車ごと突き落とされようとする千葉ちゃん、絶体絶命のピ〜ンチ!


今まさに落とされようとする車内でも、こぉ〜〜、くぁ〜〜と気合いを入れる千葉ちゃん!気合いで助かろうとする気持ちはよ〜くわかるが…

こんな高い所から落とされたら普通助からんぞ

この後、気合いで助かった?怒りに燃えた千葉ちゃんは、当時はまだピラニア軍団の一員、川谷拓三の脳天をグシャ!頭蓋骨陥没!(これも凄いぞ!)

※「タ〜レン、タ〜レン」(ずっとダーリンの香港なまりと思っていたが、中国語で大人=ターレン、目上の人や尊敬する人への敬称との事。)と千葉ちゃんを助ける良き助手で相棒のどこかホモっぽいラクダ(山田吾一)との熱い友情が泣ける。
どうやらシンガポールで剣琢磨に命を助けられたらしいのだが、このあたりの会話からもどうやら剣琢磨は根っからの悪党でもないらしいという事がわかりはじめる…。

※悪役というか千葉ちゃんの敵、九竜魔窟の殺し屋。このいかがわしさがたまらなくカッコいいのだ!

「燃えよドラゴン」のハンのパクリ?山本麟一演ずる九竜断首。意外といい奴だったりする…

不気味な仕込み杖の使い手、盲狼公(天津敏)。印象深いキャラだ。
投げナイフの使い手(千葉ちゃんとの直接対決は無し、弱い…)

※「ブルース・リーと101匹ドラゴンなんとか」という本にもこの映画の事は掲載されているが、ちょっとおバカにしすぎではないだろうか。それに千葉ちゃんがブルース・リーのその他の扱いとなっているのが許せん!
千葉ちゃん(と小沢茂弘・石井輝男監督)が作り上げた剣琢磨、甲賀龍一といったキャラクターは、ゴジラをはじめとする怪獣、座頭市、子連れ狼、黒澤映画に匹敵する世界のキャラクターなのである。
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  ■「殺人拳・2」 1974年4月27日公開/東映作品 →ジャケットギャラリーはこちら
  前作では全編にただよっていたいかがわしさが、多少だが薄れ(慣れたともいうが…)、東映空手映画の中でも最高傑作だと思う「殺人拳・2」。個人的にはシリーズ中最も好きな作品であり、前作以上にパワーアップしたウルトラバイオレンスシーン。千葉ちゃん得意のアクロバティックな動きをプラスしたその空手アクションは、あいかわらずキレがあり凄い。

信じられるのは己自身のみ、と裏稼業で金を稼ぐダーティヒーローぶりはあいかわらずだが、今回はラクダに代わりピンボケ(市地洋子)という女性が良き助手として、重傷を負った千葉ちゃんをかいがいしく看病したり、淡い恋心を抱いたりと、なかなか魅力的なキャラクターで登場する。
沖縄から東京にでてきたばかりの彼女を助けたのが剣琢磨らしいが、この彼女にもなにやら裏がありそうだ‥。

前作のラストで千葉ちゃんに喉仏をえぐりとられ、人口声帯をつけて復活する不気味な志堅原との因縁の対決、正武館の政岡館長の再登場などシリーズ物としての面白さも加わり目が離せない。
さらに「ワンパクでもいい、たくましく育って欲しい」というCMで有名な(古いが…)マフィアの手先、太田黒役の田中浩(三船敏郎のスタントでも有名)、オールドファンにはおなじみのハヒーハヒーを連発するコメディリリーフの山城新伍など脇役も充実。
 
■観賞のポイントとツッコミ所

※千葉ちゃんが逆境に落ちた時のシーン。幼き頃の不遇な境遇と父の教えを思いだすモノクロシーンが突然挿入され、カッコいいテーマ曲とともに、くぁ〜〜と目を見開き復活する、シリーズお約束の燃える場面である。



※怒りに燃え、ラストバトルに挑む逆襲の千葉ちゃん。ブワ〜ッとウィスキー(だと思う…)を体にかけ、やっぱり力む!燃えるぜっ。
※これこそ伝説のシーン。
千葉ちゃんお気に入りのシチュエーションなのか、この後、この目玉飛び出しは「直撃!地獄拳」シリーズでのお約束となる。
※突然リフトに乗って、人気の無いスキー場に現れる剣琢磨。やっぱり、千葉ちゃんがやりたかったのは雪原での対決であった!
続いて、パンツ一丁でのサウナの闘い!さらに、バックにSONYのネオンサインが光る雨中での対決!…などなど、その闘いのバリエーションは豊かで、前作以上の面白さである。

※1973年4月28日公開の「仁義なき戦い 広島死闘篇」(シリーズ第2作※詳細はこちら→)でもひときわ凶暴な大友組々長、大友勝利を嬉々として演じた千葉ちゃん、バイオレンス度の高い役が性に合っているのかこちらも見逃せない面白さ!

ちなみに「殺人拳・2」の劇中、映画館で上映されているのが1974年1月15日公開の「仁義なき戦い 頂上作戦」
タランティーノが「レザボア・ドッグス」(1991年)製作にインスピレーションを受けたといわれている仁義なき戦いシリーズが上映されているのも興味深い。

※ヌンチャクや二丁鎌、トンファー、コン(棒術)、日本刀といった武道具、千葉ちゃん得意の「んっ、こぉ〜」、「んっ、くぁ〜」といった呼吸法なども紹介され、ファンならずとも勉強(?)になる。

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  ■「逆襲!殺人拳」1974年11月22日公開/東映作品 →ジャケットギャラリーはこちら
 

企業恐喝一味との戦いを軸に描くシリーズ第3作。沖縄拳法の使い手である和田浩治演じる悪徳検事、やっぱり脱いだ東映女番長(スケバン)池玲子、お土産屋の宣伝マンのようにいつもソンブレロをかぶってるメキシコからやってきた殺し屋など、それなりにアクの強い見所は多いのだが、いかんせん今回の千葉ちゃんは、あまりにも普通すぎる。(注:普通といってもシリーズ前2作と比べてだが…)

変装マスクをはぎとり、ニヤッと笑いながら千葉ちゃんが現れるスパイ大作戦のような新趣向のシーンもあるが、殺人拳シリーズのパワーは同年8月「直撃!地獄拳」の甲賀龍一へと完全に受け継がれ、本作はわりとストレートな空手アクション映画に仕上がっている。千葉ちゃんゆずりのキレのあるアクションで、しかもかわいい志穂美悦子(火鳳)や、完全にレギュラー化した正武館の政岡館長も登場。

■殺人拳シリーズは、この後、第4作「子連れ殺人拳」が1976年4月10日に公開されている。
アメリカではビデオ化されているが「STREET FIGHTER」シリーズとしては扱われていない。千葉ちゃんは剣琢磨ではなく別人、坂田周平。なお「子連れ狼」のように千葉ちゃんに子供がいるわけでもない。

 
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■「直撃!地獄拳」 1974年8月10日公開/東映作品 →ジャケットギャラリーはこちら
 

甲賀流忍法24代宗家であり空手・拳法の使い手、一応主役の甲賀龍一(千葉真一※ちなみに正式な役名は竜一ではなく龍一)。顔の怖さに凄まじいものがある元麻薬捜査課長で、今では仕事に堅い殺し屋、隼猛(佐藤允)。
バイオレンス色たっぷりの容姿だが、3人の中ではいつもボケ役になってしまう元合気道師範の脱獄死刑囚(凄い肩書きだ‥)、桜一郎(郷英治=宍戸錠の実弟)。
この一見ワルな奴ら3人が、しぶしぶ協力してニューヨークマフィア極東総支配人マリオ水原率いる国際麻薬密売組織(長いな〜)を一網打尽にしてしまうという裏スパイ大作戦のような映画である。

出演陣も豪華。いっつもパツキンをはべらせているボス、マリオ水原が津川雅彦。ブレーザー西山という殺し屋で登場するキックボクシングにも転向したシンデレラボーイ、元WBA世界フェザー級チャンピオン西城正三本人。
そして、千葉ちゃんのピンチに馳せ参じて、おいしいボケをかます出戻りドラゴン、Gメン倉田。さらには、ローンウルフという、うさんくさいイタリア人(?)レスラー安岡力也などが入り乱れてのクライマックスの盛り上がること、盛り上がること‥。

スーパー空手アクションに、ほどよくアクの強いギャグをまぶした石井輝男監督の傑作であるが、このパワーは続編「直撃地獄拳!大逆転」によって、ますます磨きがかかり、スラップスティックコメディの傑作としていよいよ花開くのだった!

 
 
■観賞のポイントとツッコミ所
※でた!いきなりの地獄拳シリーズのお約束!やられたのは五竜会の会長(室田日出男)、ちょっとリアル。

※甲賀龍一(千葉真一)の少年時代を演じるは、若き真田広之‥。
※かっこいい!倉田保昭。バッと現れ、バッと消える。その消え方もおいしいぞ!
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  ■「直撃地獄拳!大逆転」1974年12月28日公開/東映作品 →ジャケットギャラリーはこちら
  「直撃!地獄拳」待望の続編。再び集められたあの三人組が、またまた暴れまくる一段とパワーアップしたこれぞシリーズ大傑作!

今回は、時価10億円といわれる宝石「ファラオの星」をめぐって、てんやわんや(死語?)の争奪戦を繰り広げるのだが、前回の名シーンを配した軽快なオープニング・タイトルから網走刑務所前のラスボケまで、前作以上に息つくまもなく笑わせる。
火だるまになりそうな郷英治を、千葉ちゃんがおしっこで火を消し「チン火してやったぞ」という小学生レベルのギャグ。レストランでのマナーコント、接着剤ギャグ、飛行機コント。ここらでちょっとだしましょうかというノリのおっぱいポロリ、フケや鼻くそネタなどなど。しょーもないお笑いが盛りだくさんの映画ではあるが、この日本映画の常識を破るかのようなウルトラパワーは必見。

そしてクライマックスは、女必殺拳・志穂美悦子も加わる凄い格闘シーンも用意され、まさに絶対見て損なしのサービス精神満載の映画となっているのだ。

 
■これが、ラストの凄いシーンだ!
※最後は千葉ちゃんにボッコボコにやられるかわいそうな悪役キャラ!

お約束、目玉飛び出しの片眼のサミー(安岡力也)。
前歯ぼろぼろ顔面突き、さらにこの後、首360度回転キックを浴びる!(名和宏)
 
  千葉ちゃんの空手ものとしては、「少林寺拳法」(1975年)、「激突!合気道」(1975年)、「けんか空手/極真拳」(1975年)、「けんか空手/極真無頼拳」(1975年)、「激殺!邪道拳」(1977年)、「空手バカ一代」(1977年)などがある。
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